『満干の潮の研究 :福岡県北九州市小倉南区の間欠冷泉』藤井厚志著
■本体3000円+税/B5判/64頁/上製/カラーグラビア・本文2色刷
■付:DVDデータ集
■ISBN978-4-910038-39-1 C3044
■2021.10.25刊
伝承とともにあった不思議な水源のある北九州市・満干谷(みちひだに)。
雨とは関係なく時折水が湧き,「満月の満潮に満ちる」と江戸時代からいわれていた。
著者が35年間追い求めた間欠冷泉の実態は,自然の不思議さを実感させ,感激させるものだった。その研究の跡を追いつつ,解明した全体像を平易なことばで紹介する。水文地質学のおもしろさと魅力に満ちた本。
★全ての観測データと解析結果をまとめたDVD付。
【DVDについて】
全ての観測データ(種々計測値やグラフ,各種動画など)とともに,入門的なレベルでの水文地質学や水力学の解析ファイルを収める。
目次
プロローグ
1.はじまり
2.言い伝え
3.憲一さんたちの目撃
初期の調査
4.調査の取りかかり
5.月の影響がある?
6.水はどのように,どのくらい湧くのか?
7.教育委員会の調査
本格調査へ
8.2012年からの本格調査に向けて
9.流量観測
10.サイフォンの作用
11.水温観測
12.煙突効果と冷気
13.石灰岩の分布(地質)
14.間欠冷泉の水収支
15.植林地が湧き方に影響している?
16.月や太陽の影響
17.地下水の貯留槽
18.サイフォンはどのくらい奥にあるのか?
19.強い低気圧が来た
20.裂罅型帯水層モデル
21.地球潮汐からの考察
22.低気圧効果への考え方
23.次はいつ湧くのか?
【図版】満干行路
調査を終えて/Summary/引用文献/謝 辞
プロローグより(抜粋)
「おーい,そろそろ昼にしようか」
山口憲一さんが弟の繁久さんへ呼びかけました。「オーライ,谷へ下りよう,暑い」
真夏の太陽が照りつける山の急斜面,先年伐採された国有林での仕事です。
ここは福岡県北九州市小倉南区頂吉の山中,海抜300〜600mの所です。筑豊県立自然公園の一角でもあります。ます渕ダムの上流にある市立かぐめよし少年自然の家から山道を約3km,1時間余り登った所にあります。四十数年前の昭和時代のことです。
水が涸れた谷の中は涼しく,お昼の休憩にはぴったりです。満干谷へ下り,お弁当をとり始めました。「降らんなぁ,街は断水で大変じゃろぅ」
と,その時,ジャワジャワと音を立てながら,落ち葉を巻き込んだ水が谷の上から流れ落ちてきました。「おぅ,こりゃ何事じゃ」
「こりゃ‥…,潮じゃ。あの潮じゃ。違いない!」
この満干谷には,雨とは関係なく時折り水が湧く,不思議な水源があることが言い伝えられていました。
『企救郡誌』(伊東,1931)には「寛永の頃までは一村なりしが,今は枝郷となれり。此村に満干と云処在。常に満干在事,潮の如く,岩間より淡水を吹出すに依,号とす」と述べられています。
満干谷からずっと下流にある頂吉の村人たちは,雨も降らないのに時々小川(吉原川)の水が増えることを今もよく経験しています。これを村人は昔から「潮が満ちた」と呼んできたのです。きれいな川水で洗い物をし,うっかり置き忘れたものがあると,いつの間にかそれが下に流されてしまうことがあるから,気をつけるようにとも言われてきました。……
【著者紹介】藤井厚志
1945 山口市に出生
1968 山口大学文理学部理学科(地学科)卒業
1971 九州大学大学院理学研究科(修士課程:地質学科)修了
1971 農林省(構造改善局)入省
九州農政局,中国四国農政局等に勤務
1978 北九州市役所(教育委員会自然史博物館開設準備室)に転職
1981 北九州市立自然史博物館
2002 北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)
2005 同上退職
現在,北九州市戸畑区在住
【翻訳書】『洞窟の世界』A・C・ウォルサム著, 藤井厚志訳,葦書房,1982