図書出版

花乱社

『地方創生時代の「民謡」づくり:久留米大学チクゴズの記録』神本秀爾編著

■本体1200円+税/A5判/110ページ/並製
■ISBN978-4-910038-64-3 C0039
■2022.10刊

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すべての地元は世界の中心
グローバル時代に地域の「民謡」をつくる!

本書は,久留米大学・神本ゼミを中心に2016年度から行われた地方創生プロジェクト「チクゴズ」6年間の記録。学生,地域の人,ミュージシャンらが一緒になって,主に地元・筑後地域をテーマに楽曲・映像を制作し,地方(地域)に活力をもたらすことを試みた。
第1部 プロジェクトの概要・背景,第2部 制作した「民謡」全9曲の紹介(QRコード付き),第3部 関わってくれた人々のインタビュー・対談


目次

まえがき

T プロジェクトの背景・概要

U 楽曲の紹介
 チクゴノワ[2016]/いっちゃん好きばい[2017]/火祭り─鬼夜[2017]/
 アイのカタチ[2018]/arigatou[2019]/チクゴノレイワ[2019]/ココロ漉ク[2019]/
 Spring 2020[2020]/みあれうた[2022]

V インタビュー・対談
 Sing J Roy/徳田直弘(MC TATAMI)/JAi
 山下カツヒロ/Sing J RoyとOBS,筆者との対談

W 公共と民謡
 大学の社会貢献/地域文化概念/民謡

あとがき/引用文献



「まえがき」より

 筆者の勤務する久留米大学の位置する久留米市は,筑後平野や筑後川を擁する筑後地方の中心都市で,人口は県内で3番目に多い約30万人が暮らしている。
 本書の主題は,久留米大学文学部国際文化学科の筆者のゼミを中心として2016年度から行ってきたプロジェクトである。「チクゴズ」と名づけたこのプロジェクトは,主に大学の位置する筑後地域に関する楽曲・映像制作を行ってきた。どちらかと言うと楽曲と映像では楽曲の方に重きを置く形になっている。チクゴズという名称には「筑後のひと(chikugos)」,「筑後のもの(chikugo’s)」という二つの意味があるが,通常は短縮してckgzと表記している。

 筆者の専門は文化人類学で,主にジャマイカの宗教文化について現地調査を踏まえた研究を進めてきた。勤務先ではジャマイカを含む英語圏の文化や宗教に関する科目などを担当してきている。
 このように筆者は,地域政策やまちづくり,観光などのように「地方(地域)に活力をもたらすこと」の実学的側面に研究者・教育者として関わってきたわけではない。加えて楽曲や映像制作に関してもアマチュア(素人)である。だが,「地方(地域)に活力をもたらすこと」はその道のプロフェッショナルたちだけが関われば事足りるものでもない。…

 学生と地域の人,ミュージシャンたちのあいだに立って制作を進めていくプロセスでは予定通りにいかないことが普通である。むしろ,それぞれの場面に居合わせた人のひらめきや瞬発力に依存していることも多い。基本的に個人主体でマイペースな研究スタイルをとってきた筆者としては,この一連のプロジェクトの面白味のひとつは,誰かと一緒に進む方向を決めるというプロセスそのものにある。

 本書は以下のような構成になっている。まずT節で,プロジェクトの背景について触れる。U節では,これまでにつくった楽曲を紹介する。V節は,関わってくれたミュージシャンや学生とのインタビュー・対談の記録である。最後のW節では,チクゴズの活動を社会的・学術的な文脈に位置づけることを目指す。レゲエ調や現代ポップス的な要素もあるチクゴズの楽曲を「民謡」と呼ぶ意図などについては,こちらで確認していただきたい。
 「地方(地域)に活力をもたらすこと」のなかには数値化できない領域もたくさんある。学生が何かに取り組んでいる姿,制作された楽曲や映像,あるいはプロジェクトの新聞記事などがささやかながら短時間でも地方に活力をもたらすことはあるかもしれない。特定のゴールを定めない曖昧なプロジェクトの記録だが,手に取ってくださった方の活力の足しになれば幸いである。
 

【編著者紹介】神本秀爾(かみもと・しゅうじ)

1980年,福岡県生まれ。学部では芸術学,大学院では文化人類学を専攻。博士(人間・環境学/京都大学)。国立民族学博物館,大阪物療大学を経て,2016年度より久留米大学文学部准教授(2020年度からは大学院比較文化研究科を兼任)。教育・研究に関する主な著作は『ヒューマン・スタディーズ─世界で語る/世界に語る』(共編著,集広舎,2022),Anthropology of Ba: Place and Performance Co-emergence(分担執筆,京都大学学術出版会2021),『レゲエという実践─ラスタファーライの文化人類学』(京都大学学術出版会,2017)。その他,歌集『アントロポセン』(ふらんす堂,2021)など。