『森里海連環による有明海再生への道〜心の森を育む』
■NPO法人SPERA森里海・時代を拓く編/田中 克・吉永郁夫監修
■本体1600円+税/A5判/184頁/並製
■ISBN978-4-905327-36-3 C0040
■『いのちのふるさと海と生きる 森里海を結ぶ[1]』(2017.6刊)
■各紙に紹介されました!
『地歩自治職員研修』2015.3 「有明新報」2014.11.1-11.7特集「よみがえれ!有明海〜柳川を拠点に市民活動」 「日工業新聞」9.22 「朝日新聞」9.2 「西日本新聞」8.31 「読売新聞」8.24
多くの生きものたちが姿を消しつつある日本の沿岸域。ニホンウナギが絶滅危惧種に指定され、アサリも日本周辺の海から姿を消そうとしている。すべての生きものの「ふるさと」である海に、深刻な影響を及ぼし続けている人間の営み。かつて「宝の海」と呼ばれ、今では瀕死の状態となった有明海こそは、そうした日本の縮図である──。
水際環境の保全と再生という喫緊の課題に向け、森と海の"つながり"、自然とともに生きる価値観の復元を目指す森里海連環〈もりさとうみれんかん〉の考え方に基づいた、研究者と市民協同による実践の成果を問う。
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本書は、未来志向の価値観を"森里海のつながり"より広め、東北で生まれた"森は海の恋人"の世界を実現する、現在進行形の物語である。それは、今まさに進められている三陸沿岸の震災復興に共通する全国的課題である。
【目次】
はじめに 田中 克
第1章 筑後川流域から有明海再生を 田中 克
1 瀕死の海、有明海の再生〜森里海連環の視点と統合学による提言〜
2 筑後川河口域は有明海の"心臓部"
3 干潟再生実験 有明海の腎臓・肺機能の活性化
4 有明海再生シンポジウム、三年間の軌跡
第2章 陸の森と海の森を心の森がつなぐ〜第四回有明海再生シンポジウム報告〜
1 有明海再生への展望 田中 克
2 山の森、海の森、心の森 畠山重篤
3 韓国スンチョン湾に諫早湾、有明海の未来を重ねる 佐藤正典/田中 克
4 大震災を乗り越え、自然の環から人の和へ 畠山 信
5 有明海のアサリ復活を人の輪で 吉永郁生
6 有明海の自然と漁の特徴〜有明海と人の関わりを撮り続けて〜 中尾勘悟
第3章 NPO法人SPERA森里海・時代を拓くの誕生
1 メカジャ楽部からNPO法人SPERA森里海・時代を拓くへ 内山耕蔵
2 NPO法人SPERA森里海・時代を拓くの目的と思い SPERA森里海会員
3 世代をつなぐ森里海連環に未来を託す
地元高校生の干潟体験と有明海再生への思い 伝習館高校/八女高校生物部
地球の未来を担う子どもたちへ 木庭慎治
4 有明海再生におけるNPO法人の役割〜漁師の期待〜 平方宣清
第4章 瀕死と混迷の海・有明海再生への道
1 アサリの潮干狩り復活祭りに未来を託すNPO法人SPERA森里海・時代を拓く
蘇ったアサリの潮干狩り祭りに参加して 伝習館高校生物部
2 森里海連環による有明海再生の展望〜もう一つの提言〜 田中 克
おわりに 内山里美/田中 克
【本書「はじめに」より抜粋】
本書に取り上げた内容の多くは、二〇一〇年春から福岡県柳川市を中心に進めてきた取り組みを紹介するものです。この間、私たちを取り巻く状況は激変しました。それは言うまでもなく、二〇一一年三月一一日に発生した千年に一度といわれる巨大な地震と津波が東北太平洋沿岸域を直撃したことです。「海は必ず復興する。海辺は壊滅しても、確かな森がある限り」との三陸の漁師のひとことに触発された、有明海の再生を目指す研究者が母体となって、生物と環境に関する調査を進めるボランティア研究チームが生まれ、全国から集まった研究者による合同調査が森から海までをつなぐ視点で継続されるに至りました。その中で私たちは、三陸沿岸で今生じている問題と有明海が抱えている問題は同じ根っこだとの思いを深めています。それは、水際環境の壊滅と再生です。
有明海再生の突破口は、全長七キロにも及ぶ潮受け堤防を設置し、我が国を代表する広大な泥干潟を埋め立てた諫早湾干拓事業の見直しだ、と考えられています。最終的に防災を名目に強行的に設置されたこの潮受け堤防は、諫早湾の生物生産に深刻な影響を及ぼし、閉め切った調整池の環境は発ガン性物質を高濃度に生み出すアオコが大繁殖するほど極端に悪化し、また、司法までをも巻き込んで混乱の極に至っています。
このように漁業や沿岸生態系に深刻な影響を及ぼしたばかりでなく、海とともに暮らしていた漁業者の間に、さらに森で涵養された水の恵みをともに受けて生きる農業者と漁業者の間に深刻な亀裂を生み出し、地域社会の崩壊をもたらす事態に至っています。この歴史の教訓に学ぶことなく、その二の舞が、さらに大規模なスケールで、東北太平洋沿岸一帯で生じています。福島県から岩手県における海岸線のうち、浜という浜のほとんどすべての総延長三七〇キロにわたって、巨大なコンクリートの防潮堤が張り巡らされようとしています。一体この国は、いつまで同じ誤りを繰り返し続けるのでしょうか。
【編者】NPO法人SPERA森里海・時代を拓く
2010年10月、第1回有明海再生シンポジウムの実行委員にメカジャ倶楽部として参加。その後3年間に、2回目の日田、3回目の福岡シンポジウムを開催、太良町アサリ漁場実験地調査や支援活動などを経て、2013年4月、NPO法人「SPERA森里海・時代を拓く」を設立。「森里海連環学」を基本理念に、人の輪づくり、心の森づくりをテーマとして、自然環境の保全、特に水辺環境の再生と子どもたちの環境教育に取り組む。
【監修】田中 克
京都大学名誉教授、公益財団法人国際高等研究所チーフリサーチフェロー、NPO法人SPERA森里海・時代を拓く理事。専門は水産生物学。有明海特産種稚魚やヒラメ、カレイ稚魚の汽水域における生理生態研究を通じて、「森里海連環学」という新たな統合学問領域を提唱している。2013年度、アカデミア賞(文化・社会部門)受賞。【主著書】『魚類の初期発育』(編集、恒星社厚生閣 、1991年)、『ヒラメの生物学と資源培養』(共編、恒星社厚生閣、1994年)、『魚類学 下 改訂版』(共著、恒星社厚生閣、1998年)、『スズキと生物多様性─水産資源生物学の新展開』(共編、恒星社厚生閣 、2002年)、『森里海連環学への道』(旬報社、2008年)、『水産の21世紀─海から拓く食料自給』(共編、京都大学学術出版会、2010年)、『森里海連環学』(共著、京都大学学術出版会、2011年)、『防災と復興の地─3・11以後を生きる』(共著、大学出版部協会、2014年)
【監修】吉永郁生
鳥取環境大学教授、NPO法人SPERA森里海・時代を拓く顧問理事。専門は海洋微生物学、微生物生態学。特に、窒素の循環に関わる水圏の微生物の分子生態学を進める。琵琶湖、瀬戸内海、筑後川─有明海水系、気仙沼舞根湾(震災後の海洋環境)の基礎生産を担う細菌や微細藻などの研究に取り組む。【主著書】『微生物ってなに?─もっと知ろう!身近な生命』(共著、日科技連出版社、2006年)、『難培養微生物研究の最新技術 II─ゲノム解析を中心とした最前線と将来展望』(共著、シーエムシー出版、2011年)、『海の環境微生物学 増補改訂版』(共著、恒星社厚生閣、2011年)