図書出版

花乱社

『白夜の病棟日誌:脳死下臓器移植と高社会福祉政策の国スウェーデンより』高井公雄著

■本体1000円+税/四六判/328頁/並製
■ISBN978-4-905327-64-6 C0095

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泌尿器科の医師として30年。人生の転機となったスウェーデン留学時代のさまざまな見聞と経験をもとに,この世界同時的な激動期に超高速で高齢化が進む日本の社会と医療システムを考える。
話題の豊富さ,ユーモアを交えた率直な文体が好評の「下関医師会報」連載エッセイの単行本化。


【目次】
はじめに
 T
北欧から見た不思議の国・日本
スウェーデン社会の限りなく透明な風
スウェーデン人とその社会
スウェーデンこぼれ話
スポーツをめぐって
 U
医療の世界を支配する歪みの数々
スウェーデンの医療
ヨーロッパ社会と日本社会の間にある河
脳死下臓器移植とその法改正をめぐって
 V
日本と世界の透析医療・脳死下臓器提供・腎移植
スウェーデン脳死下臓器移植体験記
スウェーデンの脳死と移植医療
最後に

 

【本書「最後に」より抜粋】
 三十三歳の時に、脳死下臓器提供と臓器移植を学ぶためにスウェーデンに留学しました。数多くの症例と手術を経験しました。日本では泌尿器科医でしたので、普段経験できない脳死体からの多臓器摘出や膵臓移植、肝臓移植は貴重な経験でした。それのみならず言葉が十分通じない外国人との手術は、外科医として貴重な財産を私に与えてくれました。...
 日本に帰って大学病院に勤務した後に、一般病院に転職しました。その間二十年間余、管理職や若手医師の指導教官を含めて、いろいろな経験をさせていただきました。
 社会生活をしているとそのうち日本社会の良いところ・悪いところが目につくようになりました。そして、生活の中で感じたことをスウェーデンと比較している自分に気づいたのです。日本人にとっては当たり前だと思われることも、スウェーデン人の感性から見れば不思議だろうと感じられることがありました。そして、そんなことを書いてみたいという思いにかられたのです。
 スウェーデンと日本の違いは、最初は民族性とか宗教の違いからきているのかと思いました。確かに根底に流れる精神的な部分にはそういったものが影を落としているのですが、どうやらそれだけではなさそうだということが、少しずつ分かってきました。ひとりひとりの医師や患者さん、もっと言えば人間ひとりひとりの考え方が全く違っていたのです。...
 エッセイの中でいくつかの例を書きましたが、下手に権力を持った人物が組織全体や社会の要請より、自身の保身や出世を考えて周囲を牛耳ろうとすると、いろいろな不正や間違いが生じます。つまらない名誉や地位、金銭を得るために自分を捻じ曲げて生きている人はスウェーデンにはいなかったように思うのです。...

 私が医師になって最も良かったと思うことは何か、と聞かれたら、収入とかやりがいを別にして、スウェーデンに留学したことと思っています。辛いことも多かったのですが、スウェーデン人と生活し、話し合うことで、いろいろなことを学び、感じ取ることができました。自分が幸福に生きるために何をすべきなのか、ということを留学で学んだのです。...
 私はこの仕事を通して、多くの患者さんと話をしてきました。一生懸命頑張って生きてきた患者さんに、ある日突然、深刻な病気を告げなければならないことがあります。その時に、「こんな予定ではなかった」と、驚愕したり落ち込んだり苦しんだりする患者さんを何人も見てきました。
 人間には仏教用語で「四苦八苦」という避けることのできない宿命があります。その中でも四苦と呼ばれる、生・老・病・死は必ず訪れ、その運命を避けることはできません。 だからこそ、人生は日々の生活がすべてだということを、私はスウェーデン留学で知ったのです。最後に勝って、成功すればそれが人生のすべてかと言われれば、そうではないのです。人の幸せは、その人の中にしかないのです。そして、幸せは結果のみにあるわけではなく、結果までのプロセスがあっての幸せなのです。自分が幸せかどうかは、結果を見て他人が判断するのではなく、自分がどう思うかだけなのです。



【著者紹介】高井公雄(たかい・きみお)

昭和37(1962)年,山口県山陽町埴生に生まれる。昭和55年,山口県立山口高等学校卒業,昭和61年,宮崎医科大学医学部医学科卒業,平成4年,山口大学大学院医学研究科外科系博士課程修了。医学博士。日本泌尿器科学会専門医,同会指導医,日本移植学会認定医,日本腎移植臨床学会認定医,日本内視鏡外科学会泌尿器腹腔鏡技術認定医,日本泌尿器内視鏡学会技術認定医。スウェーデン・カロリンスカ王立研究所移植外科留学。国際泌尿器科学会,米国泌尿器科学会などに所属。山口大学医学部附属病院講師などを経て,平成18年より済生会下関総合病院泌尿器科,平成23年より科長,平成28年より院長補佐,現在に至る。山口大学医学部附属病院臨床講師。専門は慢性腎不全,腎移植,前立腺癌。