図書出版

花乱社

『なっちゃんの大冒険:ピアニスト久保山菜摘の平和活動』

■久保山千可子&久保山菜摘 著
■本体1500円+税/四六判/268頁(グラビア4頁)/並製
■ISBN978-4-905327-47-9 C0095
絵本『なっちゃんの大冒険:音楽がつないだ平和への願い』
■各紙に紹介されました。
「西日本新聞」2015.5.1 「朝日新聞」5.1

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私に何かできることはないだろうか?──
6歳でモスクワにて海外初演奏。小学6年から毎年チャリティー・コンサートを開催、2014年5月には寄付された鍵盤ハーモニカを持ってペルー高地の小学校へ。国際交流と平和を求め願う多彩な活動を綴った"母娘連弾"エッセイ。
「新しいピアニスト像を作る菜摘さん」PTNA専務理事 福田成康氏
【寄稿】西岡美香氏/池川礼子氏/二宮裕子氏/福田成康氏/山崎和幸氏/石田絵理子氏/大井 健氏/Roseヨーコ氏/木村厚太郎氏/中村匡宏氏/高瀬貴子氏/野中朋子氏/中村真由子氏/三島由美子氏/黒岩洋子氏/出水恵美子氏

【「第一楽章 鍵盤に私の想いをのせて」より】
◆運命の授業、そして第一回チャリティー・コンサート
 小学五年生の担任の先生は西岡美香先生であった。西岡先生のことはクラスのみんなが大好きだった。ある日の「総合」の授業。その日の授業の内容は「地雷について」であった。大きなスライドに映し出される悲惨な内容、私はその授業を聞いて衝撃を受けた。
 当たり前だと思っていたことは、当たり前ではなかったのだ。自分の幸せな環境を実感した。世界では食べ物を充分に食べられない子供たちがいる……カトリック幼稚園に通っていたので、シスターがよく話していた。しかし、死と隣り合わせにある国があるということを知り、ますます衝撃を受けた。どこに地雷があるかわからないカンボジアでは、地雷を踏んでしまって手足を失った人、また最悪の場合は命を落としてしまう人がいるのだという。
 西岡先生はこの事実をわかりやすく説明し、自分にできることを何でもいいから考えてみよう、と私たちに考えさせた。
 私は帰宅して授業であった内容を母に話し、小銭を持って募金箱のあるコンビニへ行こうと急いだ。しかし、そんな私を見て母は呼び止めた。そして、
 「コンビニの募金箱に募金するのもいいことだけど、西岡先生が言ったように、なっちゃんができることを考えてみようよ」
と提案してくれた。
 母と話し合い、小学六年の冬にチャリティー・コンサート第一回目が行われた。開催は二〇〇四年十二月二十二日であった。東京から祖父母も応援に来てくれた。
 私の演奏だけではなく、プロの方々の素敵な演奏を楽しんでもらおうということになり、チェリストの有泉芳文さんとそのお友達をゲストにお招きした。
 第一部はJ・S・バッハの「フランス組曲」、モーツァルトの「デュポールのメヌエットのための変奏曲」、ショパンの「三つのエコセーズ、バラード三番」、グリンカ作曲・バラキレフ編曲「ひばり」をピアノ・ソロで演奏した。
 私のコンサートに入場料を払ってお客さまが聴きに来ていると思うと、失敗は許されない、良い演奏を届けたいと思った。そのため、緊張は本番中も解かれず、必至に弾いていたように思う。このチャリティー・コンサートをきっかけに、私の演奏活動は始まった。
 第二部は、有泉さんとのチェロのアンサンブルでモーツァルトのピアノ・カルテット一番を演奏し、とても勉強になった上に楽しいステージを味わった。
 募金も一万円程集まり、タイ北部の地雷除去事務局とユニセフへ送金した。送金後、地雷除去の事務局から感謝状が送られてきて、そこには、タイの子供たちの笑顔の写真とともに、「今のあなたができることをしてくれたことへの感謝」と綴られていた。少しでも役に立つことができた! と実感した瞬間であった。お客さまは決して多くなかったが、無事にチャリティー・コンサート第一回目を終えたのである。 

◆『月光の夏』との出会い
 福岡の小・中学校での授業では、土地柄、夏が近づくと原爆、戦争についての授業が多くあった。また、毎年夏休みにも平和学習のための登校日があり、戦争について考える機会はとても多かった。
 佐賀県の鳥栖市で戦争中にあった実話を元にした『月光の夏』という映画がある。私が幼稚園の頃に上映された作品だ。戦争中、特攻隊に志願した芸大生が、出撃する前にもう一度ピアノを弾きたいと強く思い、鳥栖小学校にあったフッペルのピアノでベートーヴェン作曲「ピアノソナタ第十四番 月光」を弾き、日本の未来のためアメリカの軍艦に特攻機で突撃していく話である。
 この話を知ったのは、「鳥栖こどもピアノコンクール」を受けたときだった。鳥栖であった戦争中の実話を、より多くの人に伝えるため、映画『月光の夏』の俳優さんたちが表彰式に出席していた。
 コンクールを受ける度に、平和の大切さを忘れないため、母と何度も『月光の夏』を観た。
 中学生のある日、幼少期からお世話になっていた池川礼子先生を通して、ベートーヴェンの「月光ソナタ」を弾く本番を頂いた。その本番は、『月光の夏』の絵本(『ピアノは知っている─月光の夏』自由國民社)の朗読と、ピアノ演奏のコラボレーションであった。
 鳥栖市のホールへ向かうと、大ホールが満席になっていた。
 「一楽章を、この文章が終わりそうになったらフェードアウトしてね。三楽章はこの文章が終わったら弾きだしてね」
と言われた。私は戸惑った。朗読を聴きながら弾かないといけないのである。それはとても困難なことだったが、本番直前まで頭に叩き込んだ。
 舞台は満月の照明が綺麗にセットされていた。初めての『月光の夏』の舞台。本番が始まると物語へと引き込まれていく。今まで味わったことのない空気であった。お客さまのすすり泣きが聞こえる。朗読を聴きながら演奏する私も、涙が溢れそうであった。
 この本番を通して、チャリティー活動とは別に、平和を伝える活動もしたい、と強く思った。それ以来、『月光の夏』を通して"平和のコンサート"を始めることになった。

【目次】 ■第一楽章 鍵盤に私の想いをのせて 久保山菜摘  
 私にとっての音楽・ピアノ/母の夢と憧れ/バレエとピアノ/コンサート前に指を骨折/弟とデュオでコンサート出演/幼い頃の練習と本番/運命の授業、そして第一回チャリティー・コンサート/『月光の夏』との出会い/ピティナ・ピアノ・コンペティションへの挑戦/サマーフェスティバル/ピティナ・ピアノ・コンペティション全国大会/一度始めたことは続けていこう 第二回チャリティー・コンサート/舞台での初めてのトーク 第三回チャリティー・コンサート/大きな分岐点/桐朋女子高等学校に進学/二宮裕子先生のレッスン/作曲の勉強/プリマヴィスタ・カルテットと共演 第四回チャリティー・コンサート/大好きなベルリンへ/おじいちゃんを思い浮かべながら/バレエをコンサートに取り入れる 第五回チャリティー・コンサート/"平和の祈りコンサート"/福田靖子賞への想い/音楽のパートナー/学校でのアウトリーチ・コンサート/オペラユニット LEGEND」と 第六回チャリティー・コンサート/米良美一さんをお迎えして 第七回チャリティー・コンサート/ダンス・パフォーマンスを盛り込む 第八回チャリティー・コンサート/Roseヨーコさんとのコラボも 第九回チャリティー・コンサート/本番前の一人の時間/飯塚新人音楽コンクール/ペルーのフォルクローレ音楽と/第十回チャリティー・コンサートと新たな目標/南米ペルーへ/怒濤の卒業試験
■第二楽章 新しいピアニストの作り方 久保山千可子  
 私の生い立ち/札幌から東京へ/ピアノを習い始める/演劇部からサッカー部へ/菜摘誕生/パパはサッカー選手/福岡へ移転/ピアノ教室再開、バスティン先生との出会い/バスティン・メソッドの効果/進化してきたピアノ/ンサンブルのすすめ/継続は力なり/菜摘、ピアノとバレエを始める/ピアノ・デュオで金賞を受賞/六歳でモスクワ研修へ/我が家に音楽家のホームステイを/初めてのピアノ・コンチェルト/ホームステイ受け入れが国際コンクールの夢に/スロヴァキアでのフンメル国際ピアノコンクール/ピティナ・ピアノ・コンペティションの夏/姉弟デュオでのコンクール出場と慰問 /ポーランドでのピアノ・コンチェルト/「少年少女みなみ」/平和活動 @─合唱構成『ぞうれっしゃがやってきた』/平和活動 A─『月光の夏』/全国一位受賞と平和活動/桐朋学園へ/おじいちゃんが天国へ/ニューヨークでの公演/菜摘、高校卒業/ピアノ・コンクール/東日本大震災/"日本頑張れコンサート"/サッカー&ミュージック/ちちぶ国際音楽祭/九州国際フェスティバルの誕生/木下サーカスとの出会い/子育て卒業
■第三楽章 なっちゃんの大冒険に寄せて【寄稿】  
 生の松原特別支援学校教諭 西岡美香/全日本ピアノ指導者協会評議員 池川礼子/桐朋学園大学特任教授 二宮裕子/一般社団法人全日本ピアノ指導者協会専務理事 福田成康/アンデスの風 山崎和幸/石田絵理子バレエスクール代表 石田絵理子/ピアニスト 大井 健/デコレーション・アーティスト Roseヨーコ/指揮者 木村厚太郎/作曲家・ピアニスト 中村匡宏/E♪Music代表 高瀬貴子/音楽教室LaLa・シンフォニー代表 野中朋子/しんび音楽教室 中村真由子/ソレイユ音楽教室主催 三島由美子/ソウルスプラッシュクルー代表/姶良カノンステーション代表 出水恵美子
あとがき 久保山千可子

久保山千可子(くぼやま・ちかこ)

1964年,札幌市に生まれ,東京で育つ。国立音楽大学ピアノ科を卒業。1987年,ザルツブルグモーツァルテウム音楽院にてサマーセミナー受講。国内外からのアーティストのマスタークラス開催他,各地でバスティン・メソッド講座を展開。ル'セルクル音楽教室と「少年少女みなみ」を主宰。2006年,ピティナ最優秀指導者賞受賞。PTNA福岡セルクルステーション代表。全日本ピアノ指導者協会正会員。福岡市在住。

久保山菜摘(くぼやま・なつみ)

1992年,川崎市で生まれ,静岡県、福岡県を経て東京在住。6歳でモスクワにて日露交流コンサートに出演以来世界の情勢に興味を持ち,小学6年よりチャリティー・コンサートを行う。2013年,飯塚新人音楽コンクール第1位をはじめ,国内外のコンクール多数受賞。桐朋女子高等学校音楽科を経て,桐朋学園大学音楽科に入学。2015年,首席で卒業,「桃華楽堂新人演奏会」に出演。