書評・紹介『「ある女工記」DVD BOOK』
●「毎日新聞」北九州版 2020.10.6
葉山嘉樹の原作映画 「ある女工記」作家の古里でオールロケ 解説文も収録DVD BOOK発売
みやこ町出身のプロレタリア文学作家、葉山嘉樹(1894〜1945年)の短編小説を原作として製作され、2016年に公開された自主製作映画「ある女工記」などを収録したDVD BOOK「葉山嘉樹『淫売婦』、小説から映画へ」が発売された。行橋市出身で監督・脚本を手掛けた児玉公広さん(53)は、「地元の人々とともに作り上げた作品。映画を通じて、北九州・京築地域にもかつてこういう時代があったことを学んでほしい」と話している。
原作の時代設定は1910年代の横浜。主人公の若い船員が港町の売春宿で肺病に侵された娼婦に出会い、格差と貧困に抗い生きる女性の姿と青年の成長を描いた。
映画では舞台設定を葉山の古里、みやこ町豊津と門司港に移し、北九州・京築地域一帯でオールロケを刊行した。作品は2016年に公開され、同年、コルカタ国際短編映画祭(インド)で特別賞を受賞。17年のニース国際映画祭(フランス)で5部門にノミネートされるなど海外でも注目された。
DVD BOOKには、葉山の代表作「セメント樽の中の手紙」を女優が朗読しながら、葉山ゆかりの地を訪ねてみやこ町内を散策する同名の短編映画や、地域史研究者で葉山の母校、旧制豊津中(現・育徳館高)の前校長、小正路淑泰さん(58)が寄稿した史料価値の高い解説文なども収録されている。
アジア映画研究者で、映画「ある女工記」のプロデューサーを務めた西谷郁さん(47)は「格差や子供の貧困が広がる今こそ、葉山作品を読み語らうべきだ。『ある女工記』が葉山文学とこれからの生活を議論するきっかけになれば」と話している。(松本昌樹)
●「社会文学通信」第113号(日本社会文学会、2020.10.15発行)
葉山嘉樹作品「ある女工記」DVD BOOK発売
『ある女工記』のDVDに加えて、葉山嘉樹の短編小説「淫売婦」「セメント樽の中の手紙」(青空文庫)を収録し、雑誌「リベラシオン」一六五号(福岡県人権研究所)の特集記事を一部採録(小正路淑泰「映画『ある女工記』に反映された史実」、浦田義和「映画「ある女工記」を観て」他)する。特典映像として、@実験短編作品の『葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」』とロケ地になった築上町の古民家再生の様子を描いたドキュメンタリー『古民家で魅力あるまちづくり 〜旧竹内家住宅改修の記録』が収録されている。西谷郁編。初回七〇〇部限定発売。定価三八五〇円、花乱社(福岡市)。(浦田義和)