書評『阿蘇くじゅう・朝の光へドライブ』
●「神戸新聞」「岩手日報」「山梨日日新聞」2017.2.12
厳しくも美しい自然
ライフワークとして九州の自然や旅風景を撮り続けている写真家の著者が、熊本、大分両県にまたがる「阿蘇くじゅう国立公園」で撮影した
3年間の作品をまとめた。地震や噴火など、厳しい自然の裏側にある、美しさを捉えた一冊。木々のトンネルを抜けると、キツツキが木をたたき、鹿やキツネが顔を出す。夜になると雄大な山々の上に、流れ星が尾を引く。著者自身が「とても自由な気持ちが心に広がる」と言う風景が詰まっている。
●「熊本日日新聞」2017.1.29 月イチ増感号読書
著者は福岡市在住の写真家。大分くじゅうの山荘で5年間働いた時期に撮影を始めた。6冊目となるこの写真集では
「登山で出合う特別な風景とは違い、普段から身近に存在している自然が見せる力強く優しい美しさ」をとらえた。阿蘇くじゅうの雄大な風景から、草花や昆虫といった足元の小さな自然まで80点を収録。熊本地震後に撮影した作品も美しい。
●『ぐらんざ』2017年2月号
阿蘇くじゅうの朝の交響曲を 写真集で聞く
新春、まず手にとったのは、一冊の写真集。福岡在住の写真家、川上信也さんの『阿蘇くじゅう・朝の光へドライブ』という詩集のような写真集である。添えられた短い文章とともに一枚一枚写真を眺めていると、どこまでも深い宇宙の広がりに落ちるように吸いこまれてゆく不思議な感覚になった。
高原の風に吹かれる樹々のそよぎが耳に届き、下草に宿る朝露は宝石のように光っている。古代からかわらぬ月光は、満開のコブシのひとつひとつの花をランプのように灯らせ、あたりを照らす。林道を横切る鹿やキツネの眼に見つめられ、おもわず朝焼けに染まる阿蘇の山中に、私もまたまぎれこんだ気分になった。
「撮影を続けたこの三年の間、この地域は大規模な噴火に二度、そして大きな地震という災害に見舞われた。多くの人たちが大変な思いをしながら復興をすすめている。今はとにかくここに来てくれるだけでも大きな復興の力になるという地元の声に押されて、以前とかわらず足を運び、写真を撮り続けている」とあとがきに書いている。
写真集を発行して阿蘇くじゅうの自然の風景を心から祝福すること、それが写真家川上信也さんらしい災害地へのエールなのだと思った。
(六百田麗子氏)
●「西日本新聞」2017.1.22
朝もやの中、車のエンジンをかける。フロントガラスに映る阿蘇やくじゅうの山々。そのシルエットをたよりに、どこまでも続く高原の一本道をすべるように走り始める。車窓の向こうに広がるのは、草原、森、山々。カッコウの鳴き声が聞こえてきた──。写真家は、そうやって阿蘇やくじゅうを車で走りながら、草原や森や山々が見せる一瞬の表情を切り取ってきた。
朝焼けの空にかかった虹、路上にたたずむシカ、春の訪れを感じたのか静かに顔を出すユキワリイチゲ。登山してたどりつくような特別な場所ではなく、車で気軽に行ける場所にある "普段着の自然" の中に、力強く優しい美しさを見いだしている。
写真家は1971年生まれ。福岡大を卒業後、大分県・
くじゅうの山あいにある法華院温泉山荘に5年間勤務し、その後、福岡市を拠点に写真家として活動する。
●「大分合同新聞」2016.12.29
美しい阿蘇くじゅう地域の自然を切り取った写真集/魅力多彩に
福岡市在住の写真家川上信也さん(45)が、阿蘇くじゅう地域で撮影した写真をまとめた写真集「 阿蘇くじゅう 朝の光へドライブ」(花乱社、税別1800円)を発表した。「写真集を通して阿蘇くじゅう地域の魅力を伝え、地震や噴火で減った客足が少しでも戻れば」と願っている。
くじゅう連山・坊ガツルにある法華院温泉山荘に1997年から5年間勤務した経験を持つ川上さん。大好きな場所を見直そうと、2年半前から月2、3回足を運び写真を撮りためた。春夏秋冬さまざまな顔を見せる自然を、カラー112頁の写真集に収めている。
「広々とした雄大さが阿蘇くじゅう地域の魅力。今回は、山の麓の自然という新たな視点で撮った。少しでも多くの人が実際に訪れるきっかけになれば」と川上さん。来年には竹田市久住町、由布市湯布院町で写真展も予定している。活動詳細はホームページ(http://www5b.biglobe.ne.jp/~kawashin/)。