図書出版

花乱社

 書評『風の街・福岡デザイン史点描』

●「毎日新聞」福岡 2017.12.13
福岡のデザイン活動に光「功績を歴史に残したい」
ギャラリー風・武田代表が著書

 中央区天神2の「ギャラリー風」代表の武田義明さん(68)が、福岡の発展を支えてきたさまざまなデザイン活動などについて記した「風の街・福岡デザイン史点描」(花乱社、1836円)を出版した。
 博多区出身の武田さんは1997年にギャラリーを始め、さまざまなデザイナーたちと出会ってきた。自己表現するアートと違い、デザイナーは製品に名前を記すことは少ない。「無名のまま、デザイナーとして仕事をする人たちを歴史に残したい」との思いが執筆につながった。
 著書では、福岡のデザイン界に貢献した、グラフィックデザイナーの西島伊三雄、岩田屋のデザイン顧問などを務めた柏崎栄助、九州芸術工科大(現九州大)初代学長の小池新二の3氏(いずれも故人)を結び、功績を紹介。アナログからデジタルへの変遷や市地下鉄のユニバーサルデザインなども交え、福岡の多様なデザイン史の輪郭をたどった。
 武田さんは「生活風景で見過ごしてしまっているものも、たくさんの人が苦労を重ねてデザインしたということを思い起こしてもらいたい」と話している。【山崎あずさ】

●「福岡県立図書館公報」 2018.1
「風とデザイン」/活気づく街描写
 本書は、福岡市のデザイン史に関する散文集です。著者は福岡を「風がデザインした街」と捉え、商業都市としての福岡市の発展とデザインが徐々に確立し活気づいていく姿を描写します。つかもうとしてつかめない、見えているようで見えない風とデザインを重ね合わせ、その本質を語ります。
 福岡のグラフィックデザイナーの代表格である西島伊三雄さん▽福岡ビルにあったインテリアショプ・ニックのデザイン顧問を務めた柏崎栄助さん▽九州芸術工科大学の初代学長だった小池新二さん──この3人の活動を中心に、福岡の街を創り出してきたデザインの風をとどめています。

●「西日本新聞」2018.3.4
 近代以降、商業都市として発展してきた福岡市。さまざまなデザインが街を彩ってきた。新聞・雑誌の広告、包装、都市景観、案内標識、家具など、デザイナーたちが活躍するジャンルは多岐にわたるが、彼らは印刷物や商品のいわば黒子であり、無名の存在だ。著者は彼らに光を当て、「人」のつながりに街の変化を重ね合わせながら、地方都市のデザイン史を描こうと試みた。中心に据えたのは、地域に密着した意匠を唱えた西島伊三雄、漆器や陶磁器などのデザインで活躍した柏崎栄助、日本デザイン学会初代会長や九州芸術工科大初代学長を務めた小池新二の3人。彼らを起点にデザイナーたちの水脈と活動をたどっている。著者の関心は幅広く、メディア、印刷、さらにはコンピュータグラフィックスなどの関連分野へも言及している。著者は福岡市の画廊経営者。

●「西日本新聞」2018.9.12 風車
 かつて、インテリア・デザインの発信基地として全国はおろか国際的に知られた専門店が、福岡市にあった。天神交差点の一角に立つ福岡ビルの2〜3階を占めたNIC(ニック)である。1966年からおよそ30年間、単にモノを売る店ではなく、新しい情報化社会に対応できる高グレードの室内デザインを目に見える形で提供する拠点として注目された。
 福岡ビルと交差点をはさんで向かい合う岩田屋百貨店から出資した中牟田喜一郎社長は、当時、働き盛りの50代、並々ならぬ熱意で新機軸に取り組んだ。小池岩太郎、柏崎栄助などデザイン界の学識者を顧問に迎え、和洋の家具から照明器具、クラフトまで多彩な品揃えで、どのようなプロジェクトにも対応できる提案型の営業活動を展開した。
 その後に新築された西鉄グランドホテル、博多全日空ホテル、福岡銀行など、福岡市のランドマークとなる建築のインテリアを全面的に引き受ける成果を挙げた。さらに九州で初めての領域横断的なデザイナー集団・九州コミッティの結成にも尽力するなどの業績も評価され、企画展「デザインフィールドにおける一つの企業ーNIC展」(1972年、東京・銀座松屋)となった。
 このNICの誕生から閉店までの軌跡は、武田義明「風の街 福岡デザイン史点描」(花乱社、2017 年)に詳しいが、武田は「運動体としてのニックは、現代デザインにとって極めて重要な問題系として私たちの前に広がっている 」と結んでいる。
 この福岡ビルも、再開発計画で取り壊され、高層ビルに建て替えられるそうだ。文化の発信拠点ともなる構想はあるのだろうか。(竹若丸)