図書出版

花乱社

 書評『詩集 花もやい』

●「南日本新聞」2017.9.28 詩はいま9月 平田俊子  
 気持ちよく響く肉声
 岡田哲哉さんは出生地である出水市に戻り、生家近くに45年間住んでいる。新詩集「花もやい」は、福岡市の花乱社より刊行された。
「宙 (そら)うた」と「地(じ)こえ」の2部構成。「私なりの花鳥風月そして天地人の一冊」とあとがきにある通り、沈丁花 や糸瓜、鮎や千鳥や人間など、詩の題材は多岐にわたる。
 とはいえ花鳥風月の一般的なイメージとは異なり、どっしりとした大地に南国の熱気と湿度があり、焼酎のにおいがする。人の話す言葉は方言まじりで、交流は濃密だ。
 飾り気のない言葉からは、著者の温かく開放的な人柄がうかがえる。反骨の精神が光るかと思うと、女性に関してはロマンチックな一面がのぞく。そういう振幅もこの詩集の持ち味だろう。
 「シゲヨさんとミヨちゃんを送ったあと/ 見上げた空は青かった わたしは双手で雲にぶらさがるくらい/背伸びして叫んだ/『ヨシッ! ヨシッ!」』(「残りの月」)
 自分たちを励ますような、肯定するような「ヨシッ! ヨシッ!」がいい。この詩集には随所に肉声が気持ちよく響いている。


●「南日本新聞」2017.10.6 
 出水市の詩人・岡田哲也さん(69)が11作目の詩集「花もやい」を出版した。生まれ育った出水の「私なりの花鳥風月」を歌った30編。愛すべき地で暮らす日々の調べがゆるやかに流れている。
 タイトル「花もやい」 の「もやい」は、絆や結いのような固いむすびつきではない。「こんな思いとつながっていたい」「この花と結ばれていたい」と願う、人と人、人と自然との結びつきを「ぼんやりと平仮名で表現した」という。
 〈このところ 景気のいい話/万羽鶴から 聞きません〉 と始まる「沈丁花のころ」は、〈 いつのまにかこの島々/放射能よりも隠微に/いかにも正しげでいかにも優しげなものたちに/骨の髄まで汚染されてます〉と警告を発しつつ、〈どこからともなく 沈丁花が香る夜は/心の鎖をほどきましょうか〉 と呼び掛け、 ほろ酔いで「良か 晩 なあ」と漏らす。
 連作「鮎のうた」は季節感たっぷりに鮎が到来する喜びを歌い、4編からなる「糸瓜のうた」では、糸瓜になって、重力に逆らったり、恋をしたり。やぶつばき、桃、コスモス、浜昼顔ー。さまざまな花と結んだ思いが平易な言葉で語られる。
 「自分で選び取って出水に住んでいるわけではない」と語る岡田さんなりの、ふるさとで暮らす楽しみと愛情が詰まっている。[兵頭昌岳]