図書出版

花乱社

 書評『中国の古橋 悠久の時を超えて』

●2017年7月号「マネジメント倶楽部」税務研究会発行
 中世の中国は、世界有数の「橋梁王国」と呼ばれるほどに多様な橋を生み出しました。壮麗な寺院を思わせる瓦屋根が大河を跨いで延々と続く木造橋、パリのポンヌフを思わせる端正な石造アーチ橋、マルコ・ポーロが『東方見聞録』に「世界でまたとない最高の橋」と記し、日中戦争の発端として現代詩の舞台にもなった盧溝橋。古くは紀元前から清代までに建設され、数百年から千年を経て今も人々の生活を支える古橋たちは、彼の国の歴史物語と建築芸術、民衆生活史を体現しています。延べ5万6,000キロ、13年の調査・撮影の旅の末に、165の古橋を収めたこの資料的芸術的価値の高い写真集は生み出されました。中国の雄大な自然と豊饒な文化を旅するようにページをめくる、スケールの大きな一冊。

●2016年8月13日「産経ニュース」
 ローマ橋を超えるスケール
 紀元前から清の時代までに作られた中国の代表的な橋を紹介する。北京市郊外にある「盧溝橋」や、河北省の省都、石家荘市にある随代の「趙州橋」など165の橋を収録。圧倒的なスケールと美しさで見る者の胸を打つ。撮影後記に「ローマ橋の取材で橋の大きさには慣れていたつもりだったが、中国の橋のスケールは私の想像をはるかに超えていた」と榊晃弘さんは記している。
 2010年から4年間かけて日中を10往復しながら中国全土約300カ所を取材。総移動距離は5万6000キロに及んだという。そうして、石積みの橋脚上に楼閣が建造された風雨橋や、美しい曲線を描くアーチ橋、吊り橋、桁橋など種類や建造年代、構造を考慮して代表的な橋を選んだ。
 中国は中世まで「世界の橋りょう王国」と呼ばれたほど、さまざまな橋のある国。しかし、資料が乏しく、日本で入手できる橋の写真はごくわずか。榊さんは中国の専門書を取り寄せて、架橋年代や特徴、分布状況を調べたものの、所在不明の橋も多く、下調べに約10年かかった。
 いずれの橋も、今も生活に利用され住む人の息づかいが聞こえる。榊さんは「中国の風土を感じてほしい」と話している。(村島有紀)

●「出版ニュース」5月上旬号
 福岡在住の著者(80歳)の写真集に『眼鏡橋』がある。この橋のアーチの石組み技術のルーツを訪ねて、著者はまず、スペイン、ポルトガル、南フランス、イタリアの南欧4カ国でローマ橋を取材し、写真集にまとめた。次は中国の橋。中国は中世まで「世界の橋梁王国」といわれるほどアーチ橋をはじめさまざまな橋を造ってきた。著者は2010年3月、上海を起点に、橋のある16省と3特別区(北京市、上海市、天津市)1自治区(広西チワン族自治区)を回った。取材は4年間に及び、移動距離は約5万6千キロ、地球一周を遥かに越えた。本書は、世界一美しいといわれる盧溝橋、中国現存最古とされる趙州橋などの代表的銘橋、そして庶民の暮らしを支えてきた風雨橋、吊り橋、舟曳橋など165カ所を掲載。橋の特徴的な構造や周辺景観にも触れる。期待した長崎眼鏡橋のルーツには出会えなかったようだ。


●2016年4月17日「読売新聞」書評
 中国の大地を旅していた頃、世界一美しいといわれる盧溝橋はもとより、北京・頤和園(いわえん)の十七孔橋、杭州の京杭大運河にかかる橋など古橋の美しさに刮目(かつもく)したことがよくあった。
 本書は、眼鏡橋のルーツを探ろうと考えた写真家が、欧州の石橋に次いで中国の古橋を求め4年にわたり5万6000キロを踏破して撮り続けた貴重な記録の中から、代表的な165ケ所の古橋を厳選して編んだものだ。
 どの古橋も現役で、それぞれの地域の自然と風土にどっしりと根を下して市民の生活を支えていることがよく分かる。
 浙江省の木造廊橋(屋根付き橋)や全長3500メートルの石梁橋(船曳き橋)、各地の様々な石造アーチ橋、支柱なしで100メートルを超える四川省の吊り橋などスケールが大きく、多様性に富む中国の古橋を見ているとすぐにでも旅立ちたくなってしまう。実に魅惑的な写真集だ。 (評・出口治明)

●2016年4月3日「東京新聞」「中日新聞」
 中国には今も古い石橋や木橋が各地に多く残っている。浙江省や河北省の街や山間の集落、上海や北京などの大都市をめぐり、そんな古橋を五年の歳月をかけて撮り続けた記録。アーチ橋や眼鏡橋、吊り橋など様式やスケールはさまざまだが、どの古橋も周辺環境や人々の暮らしに溶け込んだ〈用の美〉と古の風情を感じさせる。写真は蘇州市の「楓橋」。七世紀の唐代に創建、十九世紀に創建された。

●2016年4月5日「朝日新聞」夕刊
中国の古橋訪ねて5万6千キロ 160カ所、写真集に
 九州でよく見かける古風な石橋。ルーツはどこだろう。答えを求め、ベテランの老写真家が広大な中国に旅立った。石橋、つり橋、屋根付きの橋。この春刊行した写真集には、悠久の歴史や人々の息づかいを伝える160カ所余りの中国古橋が並んでいる。
 装飾古墳の撮影でも知られる、福岡市在住の榊晃弘(さかきてるひろ)さん(80)。調査に20年、撮影にまる4年。都会から田舎まで中国中を10回にわたりレンタカーで走破し、距離はのべ5万6千キロ。軽く地球一周を超える。レンズに収めた成果が『中国の古橋 悠久の時を超えて』(花乱社、5616円)に結実した。
「とてつもないスケールに圧倒されましてね」
400メートル余に及ぶ江西省の万年橋は重厚な石造りのアーチ橋。2キロもある福建省の安平橋には通行者のために五つのあずまやがある。運河に並行したシンプルな船ひき橋は人がロープで船を引っ張る施設で、3・5キロに及ぶものも。雨風をしのぐ屋根を乗せた風雨橋の外観は竜の背がうねるよう。湖南省や貴州省のものは巨大な楼閣を乗せ、まるで城だ。
 隋・唐代から再建や修築を繰り返してきた歴史的な橋もあれば、庶民に愛されてきた身近な橋も。特に南方は「南船北馬」の言葉があるほど運河が多い。
「中国の橋は地域ごとに個性が豊か。人の暮らしや歴史、伝統技術が詰め込まれている。近代の橋にはない、いとおしさがあるのです。古い橋を残そうという機運も生まれています」
 欄干に見事な彫刻の石板がある河北省の橋は文化大革命で壊されそうになったが、住民が表面にしっくいを塗って毛沢東語録を記し、危機を免れたそうだ。
 榊さんが撮影の構想を練り始めたのは40年以上前。1974年、昭和を代表する写真家、故・土門拳に出会い、日本の石橋の話になった。「ルーツを探ったらどうか」と促された。
 いざ手をつけると、どこに行ったらいいかも、全体像もわからない。なにしろ広大な中国。一説には百万もの石橋があるという。海外から取り寄せた関連資料や文献などで十数年かけて調べた。
 優秀なガイドを得て2010年から撮影を開始。だが、目星をつけた撮影対象を探すのにまる1日かかることも。内陸部では悪路に苦しんだ。欄干にびっしり獅子像が並ぶ盧溝橋(北京市)では次々に押し寄せる観光客に閉口した。
 「結局、九州の石橋のルーツはわからなかったのですけどね」と笑う。だが、記者の素人の目には、いくつかの写真に長崎の眼鏡橋や肥後の石工が手がけた石橋の面影が漂う気もした。【編集委員・中村俊介】



●2016年3月27日「毎日新聞」日曜カルチャー
 福岡市の写真家、榊晃弘さん(80)が『中国の古橋 悠久の時を超えて』(花乱社、5616円)を刊行した。中国各地165カ所の橋をカラーで紹介。日本とは桁外れの多様性とスケールの大きさが印象的。「どれも自然と一体となった生活の橋。中国の広大さを再認識した」と話す。
 九州の眼鏡橋に興味を抱いていた榊さん。1972年ごろ、写真家の土門拳さんから「眼鏡橋のルーツを探ってみては」と助言され、「世界の橋梁(きょうりょう)王国」といわれる中国に注目。10〜14年、2週間の取材旅行を10回行った。レンタカーの走行距離が700キロを超える日もあった。古橋以外にも廓橋(風雨橋)など中国の橋梁史上欠かせない橋も射程に入れ、合計、約300カ所を取材した。
 「平越古城橋」(1381年)は外敵の侵入を防ぐ城壁が特徴。「避塘橋」(1642年)は全長3500メートルの石梁橋。榊さんが取材した中で最長という。「単橋」(1629年)は文化大革命の際、近衛兵に壊されかけたが、住民がとっさの機転で毛沢東語録を橋の欄干に書いて破壊を免れた。
 榊さんは「それぞれの橋に歴史がある。均一化されたものはありません。人の営みの中から生まれる温かさにひかれる。中国の橋のおかげで自然への畏敬(いけい)の念を深めた」と話す。現在は日本全国の巨樹を取材中だ。【米本浩二】



●2016年3月20日「西日本新聞」
圧倒的なスケール、人々の夢 
 河の流れをまたぎ、両岸の人々の生活をつなぎ、跫音(あしおと)を聞き続けてきたからだろうか。古橋にはそこはかとなく人の歴史が薫り、風格も漂う。
 このほど、紀元前創建の橋から清代の橋まで中国の代表的な古橋165カ所を撮影した写真集を刊行した。2010年から、1回2週間、計10回にわたって、北は遼寧省から南は広東省、西は四川省まで中国16省、3直轄市、1自治区を取材。その地の古橋を架橋年代、所在地、構造などの解説文とともに紹介する存在感ある写真集だ。
 「中国の橋を取材して思ったのは、その圧倒的なスケールでした。全長411メートルで23連もある石造のアーチ橋の『万年橋』(江西省)をはじめ、舟をロープで牽引(けんいん)するため運河の中央に設置された全長3・5キロの舟引き橋の『避塘橋』(浙江省)など、私の想像を超えていた」
 ただ、取材は難航した。中国の橋についての情報は乏しく、数少ない現地の文献を取り寄せ、信頼できるガイドと綿密に打ち合わせ、広大な国土から被写体を絞った。最寄りの都市まで飛行機や鉄道で移動し、その先はレンタカーを利用、時には1日の走行距離が740キロに達した。
 写真集には、日中戦争勃発の地に架かる世界一美しいと言われる盧溝橋(北京市)をはじめ、中国現存最古とされる趙州橋(河北省)などの橋から、峡谷にかかる木造アーチ橋、庶民の暮らしを支えてきた屋根のある風雨橋、つり橋、沈下橋など多様な橋が収められ「それぞれの橋に人が足で歩いた温かみ、時代を超えた美や品格、架橋に携わった人々の夢や熱意を感じた」と語る。
 1935年、福岡市生まれ。地元放送局勤務時代から写真撮影をはじめ、これまで装飾古墳や眼鏡橋、スペイン・ポルトガルなど南欧の石橋など「名もなき民衆の所産」にレンズを向け、7冊の写真集を刊行している。
 中国の橋を取材するきっかけは、九州に多い眼鏡橋のルーツを解明したいとの思いからだった。「このアーチの石組みは中国の技術だろうか、それともヨーロッパだろうか、と疑問が湧いた。でも関係の文献がない」。それならと、南欧から現地に古橋を訪ねはじめた。
 今回の旅でも、眼鏡橋のルーツは確認できなかった。「いつかそれを突き止められれば…とにかく古橋がいとおしい、です」


●2016 JANUARY「nikkor club」
 “橋の文化”をテーマに取材を続ける福岡支部長の榊晃弘さん。九州の眼鏡橋、南欧のローマ橋に続き、今回、モチーフに選んだのは「世界の橋梁王国」といわれるほど、さまざまな橋を生み出してきた中国。
 隋代(581〜618年)から清代(1644〜1911年)かけて造られた代表的な165の橋が収められています。 2016年3月1日刊行予定。