書評『闘うナイチンゲール:貧困・疫病・因襲的社会の中で』
●『NHKきょうの健康』2020.12月号
2020年は、「
近代看護の母」として有名なフロレンス・ナイチンゲールの生誕200年に当たります。そこで本年最後の一冊は、ナイチンゲールの評伝を取り上げます。
ナイチンゲールが活躍した19世紀中期から同世紀末にかけてのイギリスでは、貧富、男女、職業などの大きな格差、そして古い規範意識と根強い差別意識が、社会の至るところに存在していました。医師ではなく患者の最も近くにい看護師が主体となって、最も貧しい人も取り残さない医療・看護の体制の構築を目指した彼女の生涯は、そのような旧弊な因襲との“闘い”の歴史そのものでした。
さまざまな圧力や偏見に見舞われながらも、彼女の信念と活動が揺らぐことはありませんでした。キリスト教の神へのまっすぐな信仰が、それを支えていたのです。「宗教的な信仰」という観点からナイチンゲールの活動や当時のイギリス社会を読みとく部分は、特に読み応えがあります。
人が傷病から回復するうえで、医師による治療と共に、看護が欠かせないものであるということを、彼女の人生をたどりながら、ぜひ感じていただければと思います。
●「西日本新聞」書評・郷土の本 2018.10.6
英国の看護師、ナイチンゲールは戦場での献身的な傷病兵看護から「ランプを持った天使」とたたえられる。しかし、元日本赤十字九州国際看護大教授による評伝が描き出すその実像は「闘う天使」。保守的な親と衝突し、軍事病院の劣悪な衛生環境による犠牲者の多くを隠そうとした軍人や官僚を厳しく批判した。自身も「天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために闘う者である」という言葉を残しているという。
●「出版ニュース」2018.9月上旬号
19世紀の英国で、近代看護確立のために生涯を捧げたナイチンゲールの足跡は闘いの連続であった。裕福な生家はナイチンゲールが看護の道に進むことに反対していたが、ナイチンゲールは祖母や乳母といった身近な人を一人で看護し、ついにクリミア戦争が始まると、戦場近くの英軍病院で看護婦人団長として働き、「ランプをもった白衣の天使」と称讃される。帰国後、陸軍病院では多くの兵士が衛生環境の不備で亡くなったことを世に示し、軍部に猛省を促した。著者は、こうした闘いの源泉が信仰であったこと、生き方は孤高だが支援する仲間がいたことを、その生涯を辿りながら明らかにする。