書評『日朝交隣外史ノート』
●「アクセス」2020.3.1号
隣国であるだけに、日本と朝鮮は古くから交流を続けてきました。本書は主に前近代の日本と朝鮮の交流を一冊にまとめたものです。倭冦の隆盛や豊臣秀吉の朝鮮侵略など、両国の間に大きな傷を残す出来事が中世にはありました。それに比べると江戸時代は朝鮮通信使の往来もあり、平穏な時代だったと言えます。本書は大部分をその江戸時代の両国の交流に割いています。干戈を交えることはなかったものの、江戸時代の交流も一筋縄ではいきません。小中華的な思想から日本を低く見る朝鮮と、朝鮮を神功皇后の時代の属国とみなすこともある日本の意識の間には齟齬がありました。新井白石や松平定信らが朝鮮通信使を迎えるにあたって、儀式や書札例を改めようとしますが、意識のずれが対立を引き起こします。
そしてその間では雨森芳洲ら対馬人士が奮闘していました。一方で日本の文人は朝鮮を学芸の先進地として通信使に漢詩を見てもらうことを喜び、通信使たちも水車やサツマイモなど日本の優れたものを取り入れようとするなど、お互いの優れた点にも目を向けていました。
しかし明治の世を迎えると明治政府は欧米列強にされたことを朝鮮に行おうとします。もはやそこには対等な交流を続けるという意識は失われてしまいました。隣国との交流は距離が近しいだけに時に色々な感情が渦巻くものですが、侮りの気持ちをもって望むことは常に戒めなければならないと強く感じさせます。