図書出版

花乱社

 書評『山頭火の放浪・山頭火への旅』

●「毎日新聞」夕刊(九州・山口)2019.10.1  編集委員 森忠彦
 1冊の新著が届いた。「山頭火の放浪・山頭火への旅」(花乱社)。著者は福岡県在住の元高校教師、吉田正孝さん(69)。「若い頃から俳人・山頭火に興味を抱くが、還暦前から熱狂的なシンドローム状態になり、彼の足跡を求めて各地を旅している」とある。
 声をかけられたのは4年前の秋。熊本・日奈久温泉で開かれた山頭火ファンの全国大会でのこと。「覚えとうね」。確かにどこかで会ったような……。君付けで呼ばれて、気付いた。高校1年の時の担任。しかも国語の。
 縁あって全国大会の運営に関わってきたこともあり、それ以来私が知る限りの山頭火ファンを紹介し、酒の旅を重ねている。時折、師弟逆転したような形となり、本では恩人のような役割りで登場する。ちと、恥ずかしい。
 還暦まで数年となり、私もその心境に近づきつつあるのか。それにしても持つべきは、よき恩師と、人の縁だ。

●「西日本新聞」2019.9.7
 山頭火の足跡たどる  粕屋町の元教師・吉田さん出版 
 粕屋町在住の元高校教師、吉田正孝さん(69)が、放浪の俳人・種田山頭火(1882〜1940)の人生と旅の足跡をたどった「山頭火の放浪・山頭火への旅」(花乱社刊、税込み1620円)を出版した。吉田さんは「彼はお金をかせぐとか、社会に貢献するとかの“生産性”はなかったかもしれないが、多くの人に愛された。息苦しさの増す今こそ、山頭火のことを知ってほしい」と話す、

「生きにくい今こそ魅力」
2014年まで県立7高校で国語を教えた吉田さん。人間らしさをさらけ出して一生懸命に生きた山頭火に魅力を感じ、約10年前から研究を始めた。本は県高校国語部会福岡地区が刊行する雑誌「国語研究つくし野」と、飯塚芸術文化新聞(飯塚市)に連載した文章に、加筆してまとめた。
 吉田さんは、山頭火の日記「行乞記」や友人らにしたためた手紙類などを手がかりに、ゆかりの地を訪ねた。第1部は「山頭火の放浪」と題し、篠栗町や宗像市など県内の足跡を紹介。第2部「山頭火への旅」では、毎年開かれる山頭火フォーラムやシンポジウムへの出席を合わせて訪ねた全国各地の様子をまとめた。
 山頭火が慕った漂泊の俳人・井上井月の墓がある長野県伊那市では、墓参を果たした山頭火の喜びや感慨に思いをはせた。「のたれ死にに近い死に方をした井月にあこがれながら、そこまで全てを捨てることができなかったのも山頭火。その弱さも魅力のひとつ」
 山頭火が精力的に俳句を作った大正から昭和10年代にかけては、日本中が戦争に向かって突き進んだ時代。山頭火のような“非生産的”な人間は生きにくかったはずだ。しかし、その中で生み出された珠玉の言葉が後世まで残り、評価されているのも人の世の面白さだと吉田さんは思う。
「人間の理想の姿ではないが、人間の生の姿が山頭火に見られる。グローバル化や効率化などが求められ、生きにくい今だからこそ、自由律俳句という文学スタイルで人間の喜怒哀楽を表そうとした山頭火に触れてほしい」(五島潔貴)