書評『草墳:姜南周短編小説集』
●「釜山日報」 2024年4月8日
75歳で登場、80歳で出した本
認知症・死など高齢者問題を扱う
超高齢社会・日本の反応に期待
晩生の小説家・姜南周(85)の短編小説集『一人になった部屋』が最近、日本で『草墳』として翻訳出版された。福岡にある出版社・花乱社はホームページでこの本を「朝鮮通信使研究で知られる学者であり、韓国釜山を代表する文化人である著者の初めての日本語翻訳書」として紹介している。「文学韓流」と呼ぶほど日本でも韓国小説が人気だが、地域出版社から出た地域作家の小説が日本で翻訳出版された事例はこれまで見られなかった。
釜山釜慶大学総長を務めた小説家は2013年、75歳で季刊文芸誌『文芸研究』新人文学賞に当選して登場、2019年彼の初めての短編小説集『一人になった部屋』を80歳で出した。他にも2017年に出した長編小説『柳馬図』は2018大韓出版文化協会青少年図書に選定された。
『草墳』には認知症や孤独死をはじめとする高齢社会の老年問題を中心に扱った9編の短編小説が載っており、先立って超高齢社会を迎えた日本でどんな反響を得るかが注目される。老年と死というテーマに対する韓日文化と感受性の違いを調べるきっかけにもなると見られる。小説家は自身のフェイスブックで「この短編集は超高齢社会を生きていく人々が考える死が主調をなしている。人はどのように死ぬのか、死んだ後の遺体はどのように処理されるのか、魂はどうなるのか、死と生に対する観念の違いは何か、などの問題を扱っている」と紹介している。
この本を翻訳した森脇錦穂さんと花乱社側は、日本にない葬儀方法である「草墳」に大きく興味を持ったという。草墳は西南海岸や島で死体を草や藁で覆っておいた葬儀方法だ。国立国語院標準国語大辞典には草墳について「3年から10年間そのままにしておき、肉がすべて腐った後に骨を選んで、甑で蒸して地に埋める」と出ている。小説家の短編「草墳」と「風の島」には、釜山水産大学(釜慶大学)教授時代に実習船に乗って西海の離島で経験した草墳の葬儀風俗が詳しく紹介されている。
小説家は「もう文を読み書きする速さは昔のようではないが、今も頭の中で新しい作品の構想を考えている」と話す。もうそれだけ書いたのなら、なぜ楽に暮らさないで苦労して小説を書くのか。そう尋ねる人がたまにいるようだ。この本のエピローグには「なぜ書くのか」に対する彼の考えを明らかにした文があり、簡単に紹介する。「面白いから書く。若い時から小説を書きたかったからだ。長生きすることが作家として書くことの障害になることはないと思う。そんな考えが荒唐無稽な信念だけではないということを証明してみせたくて夜も眠れない」【パク・ジョンホ記者】
●「西日本新聞」 2024年4月23日
70代で新人賞、海越え日本へ
韓国・姜氏、福岡の版元から出版 短編集・老いに向き合う
70代半ばでデビューした韓国の小説家が今月、自身初の短編小説集の翻訳版「草墳」を日本で出版した。著者は、朝鮮王朝が日本に派遣した外交使節「朝鮮通信使」を通じた日韓交流に長年携わる姜南周さん(84)=釜山市。縁のある日本での出版を強く願い、福岡県内の翻訳家と出版社が応えた。
姜さんは民俗学や韓国文学を研究し、釜慶大総長などを歴任。日韓で共同申請した朝鮮通信使の記録が、2017年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された際は、韓国側の学術委員長として申請資料を選定した。
現在は長崎県対馬市の名誉国際諮問大使も務める。
小説集には13年の新人賞受賞作を含む8編を収録。表題作は古くから伝わる死者の弔いがテーマで、 大学で教えていた1970年代に学生と韓国の離島を訪ね歩いた民俗文化調査が基になった。日本にも通じる高齢化や孤独死などの社会問題を盛り込んだ作品もある。
姜さんは朝鮮通信使の関連行事で知り合った森脇錦穂さん=北九州市若松区=に翻訳を依頼。森脇さん出版社探しにも奔走し、福岡市・天神の出版社、 花乱社が「客観的で淡々とした文章が人への愛を感じさせる」と引き受け、日本での書籍化が実現した。
「収録作品の多くは老人がテーマで、内面に悲しみを抱える生き方を描いた」と姜さん。人間関係が希薄な現代社会を憂えて「寄り添って生きることが人間の真の姿。人間愛を忘れないでほしい」と作品に込めた思いを語った。森脇さんも「高齢化が進む韓国社会の現在がうまく切り取られている。日本でも共感できる内容だ」と話した。