図書出版

花乱社

 書評『帝国日本の植民地を歩く:文化人類学者の旅ノート』

●「山梨日日新聞」「新潟日報」 2019.12
 韓国ではなぜ反日感情が強いのか。その原因を探るために、文化人類学者の著者は、かつて日本の植民地だった土地へと旅する。そこには「反日文化圏」も「親日文化圏」もあった。
 シンガポールや台湾、パラオ。広島や中国・南京での「展示された戦争」。さらに英国アイルランドという植民・被植民関係のはざまで悲劇的な人生を送った官僚や、フィリピンの「独立運動の父」にも光をあてる。
 自身の人生に引き寄せた、静かな考察だ。

●「東洋経済日報」10.25
「帝国日本の植民地を歩く」を読んで 朴 仙容
 もはやこの時代、国家を構成する国民は単一民族ではない。先進諸国は揃って 多民族共生社会に向かう。それが人類の求める理想社会になりつつあるのだが、その途上で起こる弊害も小さくない。微力ながらも、我ら在日コリアンの諸々の体験談が役に立つ時代となり、多民族共生社会実現の貴重な存在になった。
 その思いが強まる中、ラグビーのワールドカップで日本チームが全焼で予選を通過する快挙を成し、ラグビー人気が沸騰した。 日本代表の顔ぶれに目を見張る、多種多様の多民族集団だ。ラグビーをよく知らないので、そのメンバーに驚き、どこの国も同様だと聞き、さらに驚いた。国籍が問われない。異民族集団の結束で一つの国を代表するラグビー、多民族共生社会を先駆ける素晴らしいスポーツだ。ノーサイドの印象しかないラグビーだったが、このノーサイドには垣根を取り払う、深い意味が潜んでいる。だから試合後の爽やかさが、強く印象に残るのだろう。そこには「ラグビー憲章」と言える崇高な精神があり、それが世間に広がってファンが急増した。応援する人々がまた素晴らしい。民族的なこだわりのない子供たちの応援ぶり、日本の明るい明日が見えてきた。
 それに比べて韓日関係の悪化は、スポーツ精神にほど遠い。国際化時代に逆行、民族主義者間の紛争が恥ずかしい。関係悪化を恒久化する最大要因は両国人の歴史認識の相違にある。今回その解決の糸口になりえる本が出版された。「帝国日本の植民地を歩く」(花乱社)だ。民族的なエゴのないニューカマーの著者(崔吉城教授・東亜大学)の力作。反日・親日に対する新しい視点のアプローチだ。アジアには反日文化圏と親日文化圏があると著者は言う。反日文化圏は朝鮮半島から大陸へ広がる。中でも韓国の反日感情が一番強い。台湾や南洋などには親日文化圏が広がっている。台湾では植民地時代の日本文化が日常の中に残り、台湾総督府の庁舎は中華民国総督府に利用され、観光スポットになっている。対照的に朝鮮総督府は植民地化された屈辱の象徴、存在を放置できずに破壊した。著者は反日の本質を理解するために植民地を研究、現地を訪ねて、 現地を訪ねて直接見聞きしている。帝国日本の植民地だけでなく、列強の植民地も歩き、その地その地の事情・事例を挙げ、その意味を高札しているが、著者自身が反日だ、親日だと指差され、憎しみの対象にされたこともある。
 韓日の「かけ橋だ」と言われ、嬉しく受け取っていると、突然その立場から突き落とされた苦い経験も多いようだ。著者を中立な人と評す人がいる。問題意識は強いが、文中には中立や客観性を意識した言葉の繕いはない。誤解を恐れる記述もない。植民地を歩き、見たまま 聞いたままを考え、韓国人の反日感情の根源を探究し、韓日関係の悪化原因を率直に綴っている。韓日両国人の相互理解を進める解説書として評価している。

●「東洋経済日報」10.18
 忘れたい過去、受け入れ難い遺産をどう処理すればいいのか。憎しみ(反日感情)や英雄(殉国者)はどのように作り出されるのか。韓日の狭間を生きた文化人類学者の崔吉城氏が、各国の植民地跡を訪ねた紀行文。
 崔氏は「現地を訪ね、直接見聞きしたものを中心に、日本の植民地だけではなく、世界史的な植民地を歩いて調査した事例を挙げて、その意味を高札してみたいと考えた」と話す。