『草墳:姜南周短編小説集』姜南周著/森脇錦穂訳
■本体1800円+税/四六判/216ページ /並製本
■ISBN978-4-910038-90-90 C0097
■2024.4刊
■紹介されました:「釜山日報」2024.4.8 「西日本新聞」2024.4.23
霊魂不滅への祈り
学生たちと民俗文化調査に訪れた南海の離島で,喪われた墓制の痕跡に触れ,シャーマニズム世界に分け入ることになる表題作他,市井に生きる人々の哀歓を描いた8編
【朝鮮通信使研究で知られる学者であり,韓国釜山を代表する文化人である著者の初の邦訳書】
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草墳の中の遺体は数年が経過すると白骨だけが残る。数年後、吉日を選んで草墳を解体して骨を収拾し、棺の中に収める。この収拾した骨は本葬、つまりもう一度葬儀を行った後、永久墓に埋葬する。
村の年寄りたちは、人は死んでもあの世で新しく生まれ変わると固く信じている。新しく生まれ変わるためには、この世の穢れをすべて洗い落とし、綺麗にならなければならない。そのための最も重要な手順が、草墳葬だと信じられていた。─「草墳」より
もくじ
「霊魂不滅」への思い──『草墳』の出版に寄せて[姜南周]
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風の島
キャプテン・パーカー
一人になった部屋
花札
鳥になる
風葬の夢
不在者の証言
草墳
付・なぜ書くのか
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訳者あとがき[森脇錦穂]
「「霊魂不滅」への思い:『草墳』の出版に寄せて」より
「霊魂不滅説」は今も有効なのだろうか。友の死を悼み、葬儀場を後にしながら私は今日もこの思いに耽る。
現代医学がいうところの「臨終」を待つ病院の白い部屋、屍が煙と化す火葬場、潮風が吹きつける海辺の埋葬場、山の斜面に設けられた埋葬場─その場面はどこであれ、死者を見送る場において弔問客は一様に、亡者のあの世での平穏を祈る。その祈りには切なる願いも込められている。
このような祈りは、この世と同じように亡者が行くもう一つの世界があると信じていることを意味するものではないか。この考えは我々の生活の中に深く根付き、今も受け継がれている。
若い頃の私は、二十数年を掛けて韓国の西南部の島々を尋ね歩いた。島への交通の不便さは勿論のこと、現代文明の恩恵もあまり届かない島々。これらの島々を回り、都市と島の文化の格差や古くから離島に残る文化を調べることが私の主なフィールドワークであった。
この調査で得た思わぬ収穫の数々。その一つが「霊魂不滅」の思想であった。
何らかの繋がりや交流が認められない島々の人々が、時間や空間を超えて共通の来世観を今なお持ち続けていた。「死」に対する考えや「屍」の扱い方、葬儀の手順まで類似していたのである。
陸地に遮られ、それぞれ孤立した島での冠婚葬祭の手順が類似しており、祖先を崇拝する様式も酷似していた。
数百年の間、海風にさらされ幹が大きく曲がってしまった古木や、風雨に浸食されて角の丸くなった巨岩に対する畏敬の念においても共通のものがあった。
この自然の神秘や命に対する想い、人々の持つ畏敬の念は、私にとって今も解けない謎である。その謎に挑むべく島々を尋ねた日々。そこで感じた「霊魂不滅説」と人間の一生の意味をここに再び思い返してみる。
二〇二三年十二月
姜南周
【著者紹介】姜南周(カン・ナムジュ)
1939年,慶尚南道河東に生まれる。釜山水産大学校卒業,釜山大学校博士課程修了(文学博士)。釜慶大学校教授・総長,釜山文化財団初代代表理事。朝鮮通信使記憶遺産UNESCO韓日共同登録韓国側学術委員長。『痕跡を残すこと』他,10冊の詩集を発表。『文芸研究』77号(2013年夏)新人小説賞受賞。長編小説「柳馬図」他,多くの文学雑誌に短編小説を発表。
【訳者紹介】森脇錦穂(もりわき・くむす)
RKB(TBS)ソウル支局,韓国放送公社(KBS)国際局勤務を経て,九州国際FMパーソナリティー,北九州国際交流協会理事,北九州市立高等学校韓国語講師。第13回松本清張研究奨励事業報告(共同研究,2013年1月),「韓国における清張作品の受容に関する調査・分析(映像化された作品を中心に)」を執筆。現在,北九州市市民カレッジ講師(九州国際大学地域連携センター),「韓流ドラマで学ぶ韓国語の世界」,「韓国文学ベストセラーへのいざない」などを担当。