『食の人文学ノート:日韓比較の視点から』朝倉敏夫著
■本体2000円+税/A5判/256頁/並製
■ISBN978-4-910038-49-0 C0077
■2022.3発行
「食」の学びの楽しさ,面白さをガイドする。
日韓の文化比較,特に韓国の食文化研究の第一人者が,様々な文献や新聞記事などを紹介しながら,日本の「食」を概観。
さらに日韓の食の比較を通して、異文化・自文化を知る楽しさを伝える。
目次
はじめに
序 章 食の人文学
第1章 食の歴史学 本から読む日本の食の歴史
第2章 食の地理学 食の地域性
第3章 食の民俗学 儀礼食とことばを中心に
第4章 食の文化人類学 外来食の受容
終 章 日韓食文化比較
参考文献
おわりに
「はじめに」より抜粋
私の専門は韓国社会の文化人類学的研究である。1979年に初めて韓国を訪れ,韓国語を6カ月習った。そして1980年1月に,韓国の家族研究をするために新安郡の都草島でフィールドワークを始めた。1988年より国立民族学博物館に勤め,韓国社会のみならず,海外コリアンのフィールドワークも行ってきた。…
フィールドワークをするなかで,私は「食」についての関心を高めていった。もともと文化人類学におけるフィールドワークは,現地の人々とラポール(信頼関係・親密関係)を形成して,話をうかがうことが基本にある。現地の人々とラポールを形成するための最初の試験は,一緒に食事をすることである。現地の食を現地の人たちとどれだけ多く,おいしく食べて来たかが,文化人類学者の財産になると,私は考えている。
ことに韓国社会においては,一緒に食事をすることはとても重要な意味を持っていた。韓国で人と会うことは,一緒に食事をすることによってはじめて会ったという実感をもってもらうことと気づいた。また,韓国語で「食べる」という動詞は,「歳を食べる=歳をとる」,「暑さを食べる=暑気あたりする」,「心を食べる=決心する」,「辱を食べる=悪口を言われる」,「怯を食べる=怖がる」など,多くの言葉に使われている。韓国は「食べる」社会であった。…
もともと韓国社会の研究者であるため,日本の食について勉強するうえで,韓国の食との比較という視点で書いている。また,日本における近年の食の研究の進歩は,日進月歩であるが,本書はあくまで2020年度までの日本の食文化研究の成果を私なりに整理したものである。その意味で,韓国研究者による日本の食についての現時点での人文学的研究ノートとなっている。
本書が,食の文化に関心をもつ人々の一つの道しるべになるとともに,食の人文学を研究する皆さんがさらなる研究をステップ・アップするための踏み台となってくれることを願っている。
【著者紹介】朝倉敏夫(あさくら・としお)
1950年,東京生まれ。明治大学大学院政治経済学研究科博士後期課程満期退学。専門は社会人類学,韓国社会研究。韓国社会と海外コリアンの生活文化の調査・研究に従事。国立民族学博物館教授,立命館大学食マネジメント学部学部長を経て,現在は立命館大学BKC社系研究機構上席研究員。国立民族学博物館,総合研究大学院大学名誉教授。『宮廷女官チャングムの誓い』,『イ・サン』など,韓国ドラマの日本語版監修。大韓民国玉冠文化勲章を受章。大阪府茨木市在住。