『句歌集 たんぽぽ/空飛ぶ術(じゅつ)』今枝敏子・今枝美知子著
■本体1200円+税/四六判/72頁/上製
■ISBN978-4-905327-41-7 C0092
満州(中国東北部)に生まれ育ち、季節のうつろいに佇んでは、大陸のことや昔からの言い伝えなどを話してくれた母。小学校勤務の傍ら、「心の花」などに所属し、寺山修司の世界に影響されながら短歌を作り続ける娘。
自然のおおらかさや小さきものの営み、日常の何気ない瞬間を詠んだ、母娘句歌集。
母から娘へ、紛れもなくリレーされているもの。
「手にして下さった皆様にも、たくさんの元気が届きますように──」
■「たんぽぽ」から10句 俳句:今枝敏子
苺買いに夕日の通るあと追うて
木瓜咲いて遠まわりする白い猫
花散るやシャネル五番は箱に冷え
摩周湖に春のストレスほかしけり
父の果てし緯度にハマナス赤くゆれ
紫蘇もむや母のしぐさの鮮やかに
インコ来てみみずが砂をころげゆく
薄霧や宙に浮いたる馬の尻
大熟柿をぽーんと放った入日かな
菊人形胸のあたりの菊ゆたか
■「空飛ぶ術」から10首 短歌:今枝美知子
一斉に「犯人はあっち」と指をさす空き地のつばなの穂のもわもわ
追い風を確かめたくて振り返る目の前に海隙間なく海
カドニウムイエローという毒を買い求む溢れ満つ陽を描かむために
早朝に鳴くひぐらしの狂おしき蝉時雨にも混じらぬ淡さ
手鏡を失いしまま波間に立ちすくむザラザラとしか好きになれない
左右よりサクラサムライニッポンとカタカナ密かにいくさへ誘えり
その結果いじめになると問い正す子どもも我も涙ながらに
一筋の黒髪手先に絡まりて捕れぬ解けぬ我の我(が)のあり
空色の目をもつ猫はモディリアニのアンニュイ知るか永遠を知るか
港の西小鳥屋の横にあるという空飛ぶ術の本を売る店
【著者紹介】
■今枝敏子:福岡市に生まれる。満州に移った後、福岡市香椎に帰り終戦を迎える。結婚後、間もなくして宮崎市に移住する。一九八二年より「野ぼたん」に入会し俳句を始める。一九九四年、合同句集『野ぼたん』を出版する。
■今枝美知子:宮崎市に生まれる。一九九四年より「心の花」、「歌工房とくとく」に入会し、寺山修二の短歌の世界に影響されながら短歌を作り始める。宮崎市内の小学校教諭。