図書出版

花乱社

『百年経ったら逢いましょう』燒吾朗詩集

■本体2000円+税/B5変型/120 頁/小口折り
■ISBN978-4-910038-27-8 C0092
■著書=『日曜日の心中』 『騎士と坑夫』
■書評=「佐賀新聞」2021.5.18

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混沌と騒然の中に
異形の無垢を探し求めていくが如き話法は
独自のフォルムの徹底と相俟って
現実のすぐ向こう、another skyへと我々を誘う─
『日曜日の心中』に続く第二詩集

装画:塩月 悠
   San Gertz Nigel Nina Ricciの肖像によるコンポジション

本文より

──「密の味」より

あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない
触れ合えば お互いの肉体を破壊するどころか 社会に大きな
混乱を招きかねないと 権力者たちが一斉に禁じてきたからだ

そこで二人は 長らく「役に立たぬ」と言われ続けてきた力を
用いて 二人にしかできぬ秘密の密接行為を始めることにした
まず わたしの頭頂から どこにも実在しない一本の 巨樹が

伸び 緑の若葉を思い切り繁らせて 大地に大きな影をつくる
すると あなたの背中が縦に割れ そこから 毛がふさふさの
愛くるしい顔をした四足の獣が現れ のそのそと巨樹に近寄る

獣と巨樹の他には誰もおらぬ 水を飲む習性も汗をかく習慣も
ない この獣の唯一の食べ物は 猛毒を持つこの巨樹の若葉だ
幹にしがみつき 枝から枝へと這い 毒まみれの葉を貪る獣の

おかげで 巨樹はみるみる丸裸にされていく わたしにはその
姿こそが わたしだけの真実の言葉のごとく見えるのだ 一方
毒まみれになった獣は 消化のため そして体温を下げるため

死者のごとく冷たい巨樹の幹を 懸命に抱えたまま 半永久の
眠りにつく 食べる葉はここにはもう一枚もなく 他に頼れる
樹木はもはやどこにもなく あなたの体へ戻る術もないままに
 (下略) 


目次


芋虫
避難命令
三角関係
開花宣言
水盗人
対話なき世界
月と太陽の対話
ペンギン
エクソシズム
雨の誕生日に彼女は
杖の置き場所
いのちの階段
パレード
点と線
バリウムとともに去りぬ
ミスキャスト
出勤風景
霊獣
メタモルフォーゼ
足跡
ありきたりなオムレツ
この国のどこかで
白い火 青い火
選択肢だらけの夜
棒とマスク
慣れてしまえば
沈痛の市
鎮静の河
百貨店にて
ユニバーサルデザイン
ハッピーバースデイ
密の味
水を抜く
水仙の咲く街角
一分間の遠出
百年経ったら逢いましょう


 

【著者紹介】燒吾朗(たかの・ごろう)

1966年,広島市に生まれる。現在,佐賀市に在住。
英語と日本語の両方で詩作を続けており,これまで英語詩集を3冊,日本語詩集を1冊出版している。
【著書】
Responsibilities of the Obsessed (BlazeVOX,2013年)
Silent Whistle-Blowers (BlazeVOX,2015年)
Non Sequitur Syndrome (BlazeVOX,2018年)
日曜日の心中(花乱社,2019年)