『帰る旅−空想の森へ:地域アートの試みの中で』高見乾司著
■本体2000円+税/A5判/256頁/並製
■ISBN978-4-905327-89-9 C0095
■書評・関連記事 「西日本新聞」2018.8.18 「西日本新聞」2018.5.20
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「森からやって来て,さらなる森の奥深くへ──」(画家・菊畑茂久馬)
日田・湯布院そして宮崎──「地域とアート」の連携を模索しつづけたその50年は,時代性と普遍性を併せ持ちつつそのまま一つの美術史である。行動する美術家・高見乾司が,“帰る旅”の地・湯布院と美術への想いを綴る。
■目次
序 章 花野を行く 2017
第一章 幻の村 1948─
第二章 霧の町 1970─
第三章 空想の森へ 1980─
第四章 町づくりと美術館─由布院空想の森美術館の十五年
第五章 森へ行く道
一 湯布院から宮崎へ
二 森へ行く道
三 鵺の来る庭
四 「功」と「拙」の間に
五 行き逢い神
六 京橋伝説そして人形町散策
第六章 精霊たちの森
一 九州脊梁山地の村で
二 尾八重アートプロジェクト
三 高千穂「秋元エコミュージアム」の挑戦
終章 帰る旅─空想の森へ
索引
■本書より抜粋
私は,終生のテーマとして「ムラはミュージアムである」という構想を追い続けるだろう。それは,幼い頃に故郷の山の村を後にし,湯布院という山間の小さな町で「地域づくり」という運動を体験して,「町はミュージアムである」という主張のもとに「アートフェスティバルゆふいん」などの運動を企画・実行し,湯布院を離れた後は九州脊梁山地の山々に抱かれた村を訪ねて「神楽」と「仮面」の研究を続け,さらに,「地域とアート」の接点を模索するという,アーティストとしての表現活動の継続である。
その個人的な興味と衝動と活動の集積により,地域再生への道が開けるという手応えは得ている。各地での地域美術展の隆盛,古民家アート・古民家レストランなどの実施例,次世代の若者たちのこのジャンルへの進出などが,方向性の正しいことを確信させ,私にさらなる一歩を踏み出させるのである。 ─「第六章 精霊たちの森」より
* *
私の帰るべき地は,三つに増えた。父祖の地・日田,癒しと再生の土地・宮崎,そして,激動の日々を過ごした湯布院「空想の森」へ。当時の湯布院と,現在の湯布院の町とでは,大きく事情が違っていることは,私も承知しているが,かつて「東洋の理想郷」が実現できると信じて活動した仲間たちが,頑強に根を張り,生き続けていることも確かだ。この一点を手がかりに,私は湯布院へ「帰る」のである。
今となっては,私の旅は「帰る旅」なのか「どこかへと向かう旅」なのかさえ分からなくなってきているが,旅の道筋に九州脊梁山地の山々に抱かれた「神楽」を伝える村があることが一つの指標になる。(略)
私の着地点がどこになるか,どのようになるかは,まだ分からない。 ─終章より
【著者紹介】高見乾司(たかみ・けんじ)
1948年,大分県日田市に生まれ。1986年,大分県湯布院町で「由布院空想の森美術館」を設立・運営し地域づくりと連携した活動を行う。2001年に同館を閉館。宮崎県西都市へ移住し「森の空想ミュージアム/九州民俗仮面美術館」を設立・運営。2007年,「九州民俗仮面美術館」を開館。2008年,九州の民俗仮面90点が九州国立博物館に収蔵される。2016年,大分県日田市で「小鹿田焼ミュージアム溪聲館」を共同設立。2018年,大分県由布市湯布院町で「由布院空想の森美術館」を再開OPEN。九州の民俗仮面と神楽の研究をライフワークとし,神楽の里へ通い続けている。神楽の伝承地と現代の文化を結ぶ「地域とアートの連携/地域再生の手法」もテーマのひとつ。
【著書】『火の神・山の神』(海鳥社),『神々の造形−民俗仮面の系譜』(鉱脈社),『山と森の精霊−高千穂・椎葉・米良の神楽−』(LIXIL出版)など多数。『精霊神の原郷へ』(鉱脈社)が「宮日出版文化賞」を受賞