『闘うナイチンゲール:貧困・疫病・因襲的社会の中で』徳永 哲 著
■本体2800円+税/四六判/298頁/上製
■ISBN978-4-905327-87-5 C0095
■書評:『NHK きょうの健康』2020.12月号 「西日本新聞」2018.10.6 「出版ニュース」2018.9月上旬号
「天使とは,美しい花を撒き散らす者でなく,苦悩する者のために闘う者である」(ナイチンゲール)
19世紀イギリス社会の中,最前線の軍事病院にて感染した回帰性の熱病に苦しみながらも,歪んだ体制や制度,社会通念や差別・偏見と闘いつづけ,自己の信念を貫き通した生涯を追い,その思想の核心に迫った画期的なナイチンゲール論。
【目次】
はじめに
■第一部 ナイチンゲール家の娘フロレンスの夢と試練
第一章 ナイチンゲール家のフロレンス
第二章 フロレンスから看護師ナイチンゲールへ
■第二部 闘うナイチンゲールと仲間たち
第一章 クリミア戦争とナイチンゲール
第二章 病院拡張に伴う看護師育成の問題
第三章 アイルランド大飢饉とリヴァプール
第四章 グラスゴー王立病院と新しい看護師教育
第五章 ナイチンゲールの危惧と提言
参考文献/あとがき/索引
■本書「はじめに」より抜粋
フロレンス・ナイチンゲールは,十九世紀の歴史的出来事のそれぞれの領域に非常に大きな足跡を残しながら,近代看護確立のために全生涯を献げたのである。しかし,その生涯は,一筋縄ではいかない苦しい〈闘い〉の連続であった。(略)
世界中が知るところとなったナイチンゲールの素晴らしい人物像は,看護師の理想の姿となって今日でも後進の目標ともなっている。自己犠牲の精神と差別することなくすべての患者を思いやる心,厳格であると同時に寛容で面倒見の良い看護師教育者,新しい病院看護体制を生み出した創立者など,ナイチンゲールを形容する言葉は限りなく存在する。
しかし,それだけでは,ナイチンゲールの真の人物像をすべて知ったことにはならない。何故なら,それらは,ナイチンゲールの心の中にあった怒りや失望,信念などすべてを語り尽くしてはいないばかりか彼女の生き様の最も肝心な部分が欠落していると考えるからである。
その欠落しているものとは,看護師になった以後も,クリミア戦争での軍部の横暴や軍事病院の衛生環境の悪さとその犠牲者の数の多さを隠蔽しようとした軍人や役人などへのあからさまな批判であり,また,帰国後,回帰性の熱病に苦しみながらの看護師訓練学校設立,さらにまた,看護師の労働者意識と教会離れを批判,そして,資格認定試験の制度化によって看護職が就職の目的になってしまい,目的が達成されればもう一人前の看護師になったと思ってしまう傾向を危惧し,絶え間なく警告を発したことなどである。彼女の〈闘い〉の対象は見えるもの,見えざるものに向けられ,絶えることがなかった。妥協を絶対に許さないナイチンゲールは徹底して歪んだ体制や制度に立ち向かい,〈闘い〉続けたのである。
【著者紹介】徳永 哲(とくなが・さとし)
1948(昭和23)年,北九州市に生まれる
1972年3月,明治大学大学院文学研究科修士課程修了
2001年4月,日本赤十字九州国際看護大学教授(英語担当)
2011年4月〜,純真学園大学保健医療学部英語非常勤講師
北九州市在住
著書=『現代悲劇の探究─神の死をめぐって』(海鳥社,1991年)。山内淳他共著『二つのケルト─その個別性と普遍性』(世界思想社,2011年)
訳書=K.ホランド,C.ホグ著,日本赤十字九州国際看護大学国際看護研究会共訳『多文化社会の看護と保健医療─グローバル化する看護・保健のための人材育成』(福村出版,2015年)。K.イーラム著,山内登美雄共訳『演劇の記号論』(勁草書房,1995年)