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| あみ |
大敷の網めづらしと 博多人わたりきて見る冬の姫島 |
| 爼板 |
数しらぬ魚の命は 板の上の刀の痕にしるしぬるかな |
| 麦 |
つくり得し妹が稼ぎのはだか麦
蝶とならでも飛びゆくが憂さ |
| 寒夜 |
親も子もうちぞ揃ひて蕎麦湯さへ
あられ降る夜はあはれにぞ飲む |
| 貧家 |
聞き捨てて飯炊く親の見ぬまにも
声の限りに泣くうなゐかな |
| 櫃 |
やがてまた底あらはれてあぢきなし
鼠も食める米の白櫃 |
| 子 |
親泣けば子さへ泣くなり
世の中の為む術なさも何も知らずて |
| 貧居 |
うち延へて常になりぬるかね負ひ目
さても憂からぬわが心から |
| 寝 |
今はとてうち寝る時は
命さへわが身とともに伸ぶかとぞ思ふ |
| 衣 |
合わせてはまた解き放つ古衣
かくてぞ春も秋も経にける |